『独立国家のつくりかた』を読んで以来、その社会に対する考え方に共感してすっかりファンになってしまった。『現実脱出論』『隅田川のエジソン』『徘徊タクシー』『幸福な絶望』と続けて読んだがどれも抜群に面白い。坂口さんの途轍もない才能に怖いくらい凄味を感じてしまう。
本書『幻年時代』は、坂口さんの原点とも言える風景を眺めているかのような錯覚にふと落ち入る。たまたま同年代生まれということもあって、物語の中の生活感が懐かしく感じる。昭和も終わりに近付いた、これから始まる平成の世に、まだ純粋にワクワク感だけ持っていた時代。
物語とは別に本の造りも素敵だった。手触りに少しザラつきのある紙で、時間が経つとほんのり甘い香りを発しながら四隅が均等にきつね色に変わっていく。その紙の変化に合うように、上下左右に均等に充分な余白も用意されている。幻年時代というタイトルに相応しい造りだと思う。作品として大切にしたい一冊。
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