遠藤乾「欧州複合危機」中公新書 2016
知らなかったことを知り、分からなかったことが分かる。それは出来なかったことが出来るようになった時と同じように、喜びと興奮をもたらす人生に欠かせないかけがいのないスパイス。本を読む醍醐味はそこにあると信じています。本書もその醍醐味を味わえる一冊でした。
僕が本書を読み始めたきっかけは、シリア難民問題について考える材料が欲しかったからです。まずその意味において、とても参考となる視座を得ることができました。
1.EUは難民問題に対応できるよう設計されていない
そもそもEUは、第二次大戦後、復興し力をつけたドイツを政治的、地政学的に欧州のくびきに置くことを目的に誕生した経緯がある。その目的においては機能的であったが、同時にEUの強みである域内の移動の自由があることは、難民問題を引き付けるプル要因となり「問題」そのものの一因ともなっている。
2.難民問題に対してEUは変節した訳でない
人権侵害の可能性があるとされるトルコとの協定をきっかけに、EUの難民対応が変節したと非難されがちである。そういった側面は無視できないものの、そもそもEUは歴史的に難民に対して寛容であった訳ではない。ドイツをくびきに置くことに成功したEUは、存続のために新たな価値観を必要とした。そこに人権、民主主義などのリベラル要素が明文化されず意識化された経緯がある。
これらはシリア難民問題を考えるために欠かせない視点であると思う。EUが解決策なのではなく、逆に問題の一因であるというのは説得力を感じる。そして自ら問題を作り出し、そのことで各国のナショナリズムが高まり、EUの存続自体が問われることに皮肉を感じてしまう。またナショナリズムの高揚についてはグローバル化との関連を分かりやすく解いている。
トランプ大統領の誕生。極右政党が勢い付く欧州。長期化する安倍政権。どれもがグローバル化の加速とともに疎外された中間層の衰退に起因している。グローバル化と民主主義と主権国家が成り立たないトリレンマの中で、民主主義が犠牲となり、ナショナリズムはその反動ともいえる現状だが、そこに現れるものがさらなる民主主義の衰退にならないか、そこが非常に気掛かりである。
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